第六十九回 正倉院展

奈良国立博物館で毎年行われている正倉院展に行きました。

今回は平日に行ったのですが、やっぱり平日は良いですね^^
休日だと結構混むのですが、平日は10時半ごろで15分待ち。

入り口で読売新聞が提供する、今回の正倉院展の魅力を伝える新聞をもらえますので、それを見ていたらあっという間に中に入ることができました。

今回は、北倉(ほくそう)10件、中倉(ちゅうそう)29件、南倉(なんそう)22件、聖語蔵(しょうごぞう)3件の、合わせて64件の宝物が出陳。
そのうち9件の初出陳があります。

そして今回の正倉院展では、聖武天皇が亡くなって1年後の757年に東大寺で行われた「聖武天皇一周忌斎会」で使われた宝物がまとめて出陳され、見どころとなっています。

1500人もの僧侶を招いて行ったというこの法要。
その装飾品はかなり豪華でした^^

高い技術力、美しさを誇る宝物の数々

今回リーフレットを飾ったのは、シルクロードの遺風を伝える漆胡瓶(しっこへい)

正倉院 漆胡瓶

正倉院展では18年ぶり、平成21年に東京国立博物館で開かれた「皇室の名宝」展以来、7年ぶりの出陳となります。

ペルシャ風の水差しで、鳥の頭のような注ぎ口をしていて、胴体はふっくら、そして弓のような取っ手がついています。

そして、漆胡瓶が作られるときに使われた技法が、巻胎(けんたい)という技法。
板材を輪積み、もしくは薄く細長いテープ状にして巻き上げることで形成する技法です。

表面は黒漆の上に銀板が張り付けられて、鳥、鹿、蝶、草花などがあらわされています。
こちらは平脱(へいだつ)といって、黒漆を塗り、その漆面に文様の形に切り抜いた銀板などを貼り付ける技法が使われています。
漆胡瓶の装飾には銀が使われているので、「銀平脱」となります。

高度な技法を組み合わせて作られていることから、高い文明が感じられますね^^
それが千年以上も前からあったというのが驚きです。

この形は、今のイランあたりにあったササン朝ペルシアで流行した形なのだそうですが、中国・唐で造られたとみられています。
正倉院はシルクロードの終着点と言われますが、漆胡瓶はまさにそれを示すような宝物ですね。

そして私が今回一番目を奪われたのは、大幡残欠(だいばんざんけつ)
下の写真の左側にある大きな幡です。

大幡残欠

聖武天皇一周忌斎会で法会を飾った幡で、カラフルな文様が今もきれいに残っています。

驚くべきは大きさ。
なんと、長さは458cm、幅90cmもあるんです。

かなり大きいのですが、これでも「残欠」なので一部失われた状態になっていて、実際使ったものはもっと大きいのです。
この大幡はなんと、6坪ほどの面積があったのだそうです!

実際の法会では、この大幡1枚だけでなく、10枚以上も掲げられ、13~15mにも及ぶものもあったようです。

正倉院には大仏開眼供養を行った時の宝物が多く、その盛大さには驚きを欠かせませんが、聖武天皇一周忌斎会も負けないほど盛大だったのでしょうね。

会場で配られていた読売新聞の記事から写真があるものを紹介します。
まずは銀平脱龍船墨斗(ぎんへいだつりゅうせんのぼくと)

銀平脱龍船墨斗

船形の墨池に龍の頭がついていることから龍船墨斗とよばれ、先ほど紹介した銀平脱が使われているので、「銀平脱龍船墨斗」といいます。

一見、何に使ったのかわかりにくいですが、実はこれは大工道具なのだそうです。
木材に直線を引くための道具なんですね。

今は失われていますが、本来は背中に糸車がついていて、使うときは、背中の船の中に墨汁を入れます。
そして口から墨汁を吸った糸が出てきますので、それをピンとはって、真っ直ぐな線を作るわけです。

昔は、定規のようなものはなかったので、このように工夫していたんですね。

といっても、銀平脱龍船墨斗かっこよくデザインされているものですし、実際に使われたものではなく、建築の儀式などで使われたとみられる、と書かれています。

長さ29.7cm、高さ11.7cm、幅9.4cmと、少し大きめなのもそのためでしょうね。

こちらは用途不明ながらすぐれた技法で造られた撥鏤飛鳥形(ばちるのひちょうがた)

撥鏤飛鳥形

撥鏤(ばちる)」というのは、象牙の彫り細工の一つです。
象牙を染色して、そのあと表面を彫り、白い模様を表すという技法です。
撥鏤飛鳥形は、飛鳥形を型どったあとに染色し、翼と尾羽を彫っています。

撥鏤を使ったものはなかなか高価なもので、身分の高い人しか手に入れることができません。

正倉院の宝物には撥鏤を使ったものが多いですが、平安以降は途絶えてしまっているんですね。
千年以上も途絶えていて、復元されたのは明治になってからのこと。
歴史を通して伝わるものはなかなか貴重なのです。

撥鏤飛鳥形は形が緻密に作られていますが、大きさはなんと3cmほどしかありません。
写真で見るときれいに見えますが、実物をみるとめちゃカワイイです^^

独特の美しさを醸し出す撥鏤の技法は、当時の工芸技術のレベルの高さを実感させられます。

そして同じく撥鏤の技法を使っているのがおしゃれ小刀の黄牙彩絵把紫牙撥鏤鞘金銀荘刀子(おうげさいえのつかむらさきげばちるのさやきんぎんそうのとうす)

黄牙彩絵把紫牙撥鏤鞘金銀荘刀子

なんとも長い名前で覚えきれないのですが、撥鏤を使って花や鳥や雲を表現する、なかなかおしゃれな小刀です。
しかし小刀といってもかなり小さく、全長は21.2cm、刀部分は15cmほどしかない小ささです。
とても戦うための道具としては役に立たなそうですね^^

こちらはそういう目的で作られたものではなく、紙や木簡を切ったりする道具です。

「木簡」というのは、墨で文字を書けるように、木の板を短冊状にしたもの。
よく出土して話題になりますよね^^

そんな木簡ですが、一回書いたらそれで終わりではありません。
書いたものが必要なくなったら、こういう刀子で表面を削って再利用していたんですね。

つまり、現代でいう「消しゴム」なのです。
黄牙彩絵把紫牙撥鏤鞘金銀荘刀子は、撥鏤技法を使った超高価な消しゴムということですね^^


今回の正倉院展には、奈良時代のお金である「和同開珎(わどうかいちん)」や「神功開宝(じんぐうかいほう)」も展示されていました。

「和同開珎」は、「富本銭」が発見される前は日本最古の通貨として知られていたものですが、大抵の場合は土の中から見つかるものが多いです。
でも、正倉院展に展示されている和同開珎はそういうものではなく、最初から蔵の中に収められていたもの。
そういうものを見ることができるのもなかなか貴重ですね^^

今回も天平の時代にロマンを感じさせられる素晴らしい展覧会でした。
正倉院展は、平成28年10月22日(土)~11月7日(月) まで。