櫟野寺 御開帳

滋賀県甲賀市といえば、甲賀忍者や信楽焼で有名ですよね。
でも意外と知られていないのは、甲賀は優れた仏像の宝庫でもあるということです。

その代表格ともいえるのが、天台宗の古刹、櫟野寺(らくやじ)

随筆家の白洲正子が「かくれ里」の中に書いたお寺の一つで、今でも山や森に囲まれた静かな集落の中にあります。

お寺も小さいのですが、重要文化財の仏像をなんと20体も所有しています。
さらに2016年に東京国立博物館で行われた特別展「平安の秘仏 – 滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち-」展では約21万人も訪れたそうです。

ご本尊は「いちいの観音」「生え抜きの観音」と親しまれている十一面観音菩薩。
重要文化財の十一面観音の坐像としては日本最大級の大きさを誇ります。

普段は秘仏なのですが、2018年は三十三年に一度の御開帳年にあたり、10月6日(土)~12月9日(日)まで特別拝観が行われているんです!

さらに、東京や大阪の博物館に寄託している櫟野寺の仏像たちも、この期間に全て里帰りして一堂に集結しています。

トーハクで21万人を魅了した仏像たちが、本来あるべき場所で見ることができるまたとない機会だったので、訪れてみました。

櫟野寺はご用材を調達する重要拠点だった

櫟野寺には優れた仏像が多数あるわけですが、なぜかくれ里ともいわれる静かな場所に存在するのでしょう?
それはお寺の名前にヒントがあります。

そもそも櫟野寺の「櫟」という字は、あまり見慣れない字ですよね。
検索で「らくやじ」と打っても変換されないのですが、これは「いちい」と打つと出てきます。

「櫟(いちい)」というのは木のことで、このあたりはかつて櫟の原生林に覆われた秘境だったのだそうです。
櫟の木は建材として優れていて、昔からよく使われているんですよね。

櫟野川

櫟野寺の近くに櫟野川が流れていますが、この川は杣川に流れます。
この「(そま)」という字は神社仏閣の建材として材木を切り出す森林のことを指します。

杣川流域は、木曽の山林と比べても劣らないほど質の高い建材が採れていたそうなのです。

なので大仏建立の時には良弁僧正が、比叡山創立の時には伝教大師 最澄が用材を求めにここ来ています。

櫟野寺のご本尊は、最澄が生樹に一刀三礼(彫刻する時、一刻みするごとに三度礼拝すること)で彫ったとされています。

その真偽は定かではありませんが、最澄がここをご用材調達の拠点として天台宗発展に繋げようとしていたと考えられますね。
実際、往時には甲賀六大寺の筆頭といわれるほど広大な領地と僧坊をもつお寺だったそうです。

優れた平安仏が生まれた理由もそこにあるのでしょうね。

ご本尊とご縁を結べる御手糸

櫟野寺 回向柱

櫟野寺の境内に入ると、目の前にはすぐ本堂があります。

その本堂の前には結縁柱が建てられていて、御手糸が本堂へ伸びています。

実はこれ、ご本尊の手に繋がっているんです。
つまり、これを手で握ることでご本尊と御縁を結び、ご利益を頂くことができるのです。

櫟野寺 御手糸

この糸は、神社の鈴を鳴らすように引っ張るものではありません。
御手糸を持ちながら手と手を合わせればOKです。

これがあるのは御開帳時だけですので、ぜひご縁を結んでおきたいところですね^^

御手糸は、他のお寺でも御開帳の時に用意されていることがあります。

平安彫刻の傑作が集結した収蔵庫

櫟野寺 収蔵庫

本堂の裏には、収蔵庫があります。
本堂と連結していて、櫟野寺の仏像はすべてこちらの収蔵庫に安置されています。

櫟野寺の有料拝観は、本堂とこの収蔵庫となります。
下は、拝観の時に頂いた拝観経路図です。

櫟野寺 特別拝観

本堂では住職さんがお寺の説明をします。
その後に後ろの収蔵庫に案内する、という流れです。

団体さんが来たら説明が始まるような感じでしたが、御開帳期間は平日でも絶えず観光バスがやってきていました。

上の図には安置されている仏像名も書かれていますが、実はご本尊も本堂にはいらっしゃらないんですよね^^
一応本堂の外陣からご本尊お顔が見えるような窓が設置されていましたが、いかにも厨子から顔を出していらっしゃるように見せていました。

収蔵庫には薬師如来や釈迦如来など本尊級の仏像がいくつかありますが、それは他のお寺が廃寺になった時にこちらに移されてきたものなのです。

櫟野寺はかつては結構大きなお寺だったそうで、甲賀六大寺の筆頭といわれていました。
櫟野寺に属する末寺のほか、坊もあったそうです。

でも現在までにほとんどが衰退して廃寺となっており、仏像は櫟野寺に移されたとのことです。

収蔵庫内は撮影禁止。
なので、「平安の秘仏」の図録からちょっとだけ紹介します。

最澄が櫟の生木に彫ったご本尊 十一面観音菩薩

まず最初に出会うのがご本尊の十一面観音菩薩坐像。
櫟野寺における信仰の根本をなしている仏像です。

櫟野寺 十一面観音菩薩坐像

重要文化財に指定される十一面観音菩薩坐像の中では最大のもので、御開帳の時はこのご本尊がすぐ近くで見ることができます。

十一面観音は立像の場合が多いのですが、坐像は珍しいんですよね。
まるで如来さんのようにどっしりと座っておられました。

大きさは本体の像高だけで312cm、台座から後ろにある光背まで含めると5mを超えます。

大仏ほどではないのですが、すぐ目の前にそれだけのものがど~んと座っているので、とにかく圧倒されます。

それだけ大きいのに、頭から体まで一本の木で作っている一木造だというのです。
寺伝によると、最澄が霊夢を感じて彫ったとありますが、確かに今神社仏閣の境内にあるような霊木の中と比べても、かなりの大きさだったのでしょう。

仏像の大きさの話ですが、経典に書かれているものに「丈六」という仏像の大きさの基準があります。
これは「一丈六尺」の略称で、メートル法にすると約4.8mの大きさ。

それが立像の場合なので、坐像はその半分の約2.4mの大きさとなります。
これが「丈六」です。

櫟野寺の十一面観音の像高は312cm。
丈六よりも大きいように思えますが、丈六の基準において測る場合は、像底から髪際までの大きさを測ります。
髪型や冠は含めないのです。

その基準で考えると、髪際高は239.4cmになるので「丈六」になります。

もう一つの丈六仏 薬師如来坐像

櫟野寺 薬師如来

こちらは櫟野寺の筆頭末寺、詮住寺の本尊として伝わってきた薬師如来坐像です。
天台宗は薬師如来を根本にそえるので、丈六のお薬師さんがいらっしゃるのは天台宗らしいですね。

像高が222cmで、ご本尊に次ぐ大きさです。

ただ、不思議なことに、こちらのお薬師さんも丈六仏とのこと。
髪際高にすると190cmとなって、ご本尊と比べると明らかに一回り小さいのです。

それなのに丈六仏であるとはどういうことか?

お堂内にあった説明によると、使われている基準に違いがあるとのことでした。

ご本尊に使われている基準は、インドで使われていた基準。
こちらのお薬師さんは、中国で使われていた基準なのだそうです。

数字のカラクリに惑わされたような話ですが、それは騙しているわけではないと思います。
ご本尊は十世紀、お薬師さんは十二世紀の作とのことなので、その間は200年、時代に合わせて一般的とされる基準が変わったのかもしれません。

それよりも丈六仏を作り続けられる技術や篤い信仰、そして経済的基盤がここに見え隠れしているように思えます。
このような大きな仏像を作るのは結構大変なのだそうですよ^^;

坂上田村麻呂を模して彫ったという田村毘者門天

櫟野寺 田村毘沙門天

毘沙門天像はこれまでにたくさん見てきましたが、この毘沙門天像の重量感はものすごいですね。
写真でもすごいのですが、本物は一層輪をかけて迫力がありました。

この毘沙門天像に関わっているのが、奈良時代から平安時代にかけて蝦夷地平定で活躍した征夷大将軍 坂上田村麻呂。
京都の清水寺を草創した人物でもあります。

今昔物語によると、櫟野寺のすぐ近くにある鈴鹿山には盗賊の巣窟があって、通りがかる人を襲っていたそうですが、それを田村麻呂が平定したんですね。
なので、この近辺には田村麻呂を祭神にした田村神社もあります。

そしてこの毘沙門天像は、田村麻呂を模して作られたとのことです。

説としては、鈴鹿の賊を退治する際、自らの姿を彫ったこの像に祈願したとも、またはご本尊のご加護で山賊を平定できたことからその報恩のために祀った、とも言われています。

いずれにせよ田村麻呂が関係しているので、通称「田村毘沙門天」と呼ばれているんですね。

田村麻呂は、平安京造営の時に、大工を統率したり用材を集めたりする「木工頭(こだくみのかみ)」にも任ぜられていました。
用材を集めるとなれば、この地に赴いた理由がわかります。
その際に賊退治をしたのかもしれませんね。

このあたりの集落では田村麻呂がかなりの英雄として扱われていたようです。

実は33年に1度じゃなくてもチャンスがある!ご本尊拝観情報

櫟野寺のご本尊は、三十三年に一度のみ御開帳される秘仏として扱われてきました。
そして2018年はその三十三年に一度の御開帳年。

なかなか貴重な機会・・・と言いたいところですが、実はご本尊は毎年決まった期日に行けば拝観できるようになっています^^

  • 新年の特別拝観:1月2日・3日
  • 春の特別拝観:4月19日から5月第2日曜日
  • 千日詣り特別拝観:8月9日
  • 秋の特別拝観:10月19日から11月第2日曜日

通常時の拝観料は、

  • 大人:500円
  • 中高生:300円(小学生以下は、保護者同伴に限り無料)
  • 団体:450円(大人20名以上)

なのですが、ご本尊特別拝観日は、

  • 大人:800円
  • 中高生:300円(小学生以下は、保護者同伴に限り無料)
  • 団体:600円(大人20名以上)

となっています。
今年は行けない・・・という方も安心してこの期間に訪れてみるとよいですね^^

ただ今回はご本尊が御開帳されるだけでなく、東京や大阪の博物館に普段寄託している櫟野寺の仏像も全て帰ってきている、という特典があります。
今年の御開帳は12月9日(日)までですので、その間に訪れることができる方は訪れた方が良いと思います。

御朱印

櫟野寺には、

  • 十一面観音
  • 薬師如来

の御朱印があります。

まずはご本尊、十一面観音菩薩の御朱印です。

櫟野寺 十一面観音菩薩 御朱印

大開帳期間中に頂いたので、大開帳印が押されています。

薬師如来の御朱印です。

櫟野寺 薬師如来 御朱印

あと、ご本尊の御朱印は、大開帳期間だけ紺紙に金泥書きの特別朱印がありました。
書かれている内容は同じで、500円でした。