比叡山の麓、滋賀県大津市坂本にある、全国の日吉、日枝、山王神社の総本宮、日吉大社を参拝しました。

日吉大社の境内は、大きく分けて「東本宮エリア」「西本宮エリア」「奥宮エリア」に分かれます。

境内が広いので、記事を分けて書きました。

今回は、東本宮編です。

日吉大社本来の神「大山咋神」について

東本宮には、日吉大社で一番古くから祀られている大山咋神(おおやまくいのかみ)が祀られています。
なんと、古墳時代から信仰があるんです。

その原点となるのが、日吉大社背後にある八王子山。

八王子山

別の角度から山を眺めると、中腹には2棟の社殿が建っているのが見えます。

八王子山

この2棟の社殿は後の世に建てたものですが、社殿と社殿の間には、注連縄が施された大きな磐座があります。
大山咋神は現在、東本宮本殿で祀られていますが、そもそもはこの磐座に鎮座していたとされているんです。

大山咋神については、日本最古の歴史書「古事記」の上巻に、

「此の神は近淡海国(ちかつおうみのくに)日枝山(ひえのやま)(ましま)す。また葛野(かづの)の松尾に坐す、鳴鏑(なりかぶら)を用ゐる神ぞ」

と書かれています。
簡単に説明すると、大山咋神は矢の先に付ける「鳴鏑」をご神体としていて、近江の日枝山(日吉大社)、そして京都の松尾(松尾大社)に鎮座している、ということですね。

松尾大社は、渡来系一族「秦氏」の氏神を祀る神社なのですが、その神様も山の神で、大山咋神でした。

日吉大社と松尾大社は、山の上に巨大な磐座で祀るなど、祀られ方も共通点があるので、おそらく秦氏などの渡来系一族が崇めていたと考えられます。

また、大山咋神の名前についている「咋」の文字は「五穀、穀物をぐいぐい伸ばす」という意味で、五穀豊穣の神様なのです。

山が拝まれる理由は「水」です。
山は豊かな水を作り、里へ流しますから、人々に崇められたのもわかりますね^^

実際、日吉大社は山からの湧き水が豊富な場所でもあります。

大山咋神とその家族を祀る東本宮エリア

日吉大社 二宮橋

日吉大社の境内は、鬱蒼とした森林の中にあります。

境内の入り口には山から流れてくる大宮川が横ぎっていて、川を渡ると神域に入ります。
大宮川にかかる三本の橋は「日吉三橋」と呼ばれ、国の重要文化財に指定されています。

上の写真は、日吉三橋のひとつ「二宮橋」から東本宮本殿へ向かう参道を奥まで眺めた様子です。

そしてこちらが二宮橋。

日吉大社 二宮橋

ご覧の通り石橋なのですが、焼き打ち前は木造の橋だったそうです。
焼き打ちという事件があったので、今後は焼けないように石橋にしたのでしょうね^^

重文指定されている橋なのですが、それはなぜか?というと、これらの日吉三橋は、豊臣秀吉が天正年間に架けたものです。
実は日本には、中世の石橋で残っているものが他になく、大部分が江戸時代以後のものなんです。
なので貴重なんですね^^

橋を渡って真っすぐ行くと、東本宮の楼門に着くのですが、その途中に、このような注連縄が施された霊石があります。

日吉大社 猿の霊石

これは先ほども紹介した「猿岩」と呼ばれるもの。
よく見ると、ちょこんと座っている猿のように見えますね^^

ここから来る者には神縁を結び、ここから去るものは見守っているのだそうです。

日吉大社では、猿は眷属(神様の使い)とされているので、この岩も信仰の対象となるのです。

丹塗りの立派な東本宮楼門(重文)。

日吉大社 東本宮楼門

三間一戸、入母屋造、檜皮葺の形式をとっています。

ここが東本宮エリアの入り口なのですが、このエリアは門から玉垣や塀で囲まれています。
エリアの背後に回ることができ、少し高い位置から見下ろせるのですが、社殿が並んでいる様子が圧巻です。

日吉大社 東本宮

この中は清浄な神域というわけですね。

日吉大社の境内にある社は「山王二十一社」と呼ばれていますが、7社ずつ上七社、中七社、下七社とランク付けされていて、上七社は格式の高い社とされているのですが、東本宮エリア内で祀られる主な神様は、

  • 東本宮(上七社):大山咋神(おおやまくいのかみ)
  • 樹下宮(上七社):鴨玉依姫神(かもたまよりひめのかみ)(妃)
  • 大物忌神社(中七社):大年神(おおとしのかみ)(父)
  • 新物忌神社(中七社):天知迦流水姫神(あまちかるみずひめのかみ)(母)
  • 樹下若宮(下七社):玉依彦神(たまよりひこのかみ)(子)

です。
境内は三層の高さになっていて、一段目に樹下宮、二段目に東本宮と樹下若宮、三段目に大物忌神社と新物忌神社といった構成になっています。

他にも祀られている神様はいらっしゃるのですが、大山咋神を筆頭にその家族、つまり地主神がほとんどを占めているといえます。

いよいよ門から中に入ると、立派な社殿がズラリ。

日吉大社 東本宮エリア

正面には東本宮拝殿(重文)があり、左側に樹下宮本殿(重文)、右側に樹下宮拝殿(重文)が配置されています。

東本宮拝殿の奥にはもちろん本殿があるのですが、参道⇒拝殿⇒本殿という並びに垂直に横切るように樹下宮の本殿と拝殿が配置されるという珍しい構成になっています。

こちらは樹下神社本殿(重文)。

日吉大社 樹下宮本殿

三間社流造で、一間向背付きで、床が高めになっています。
本殿の床下には「霊泉」と呼ばれる井戸があるそうです。

そして、全体的に金具が豪華に打たれています。
桃山時代らしい造りですね。

日吉大社 樹下宮本殿

立派な獅子・狛犬もいらっしゃいます。

樹下宮 狛犬 樹下宮 獅子

本殿の向かいにある、格子戸で囲まれた建物は、樹下宮の拝殿(重文)です。

日吉大社 樹下拝殿

これだけ社殿が揃っているのに、この社は摂社なんです^^
普通の神社ならメインの本殿と言われてもおかしくないですね。

樹下宮で祀られている神様は「鴨玉依姫神」。
大山咋神の奥さまです。

実は、京都の下鴨神社で祀られる御祭神でもあります。

下鴨神社の由緒によると、鴨玉依姫神は、川で丹塗りの矢を拾い、それを持ち帰ったところ懐妊したといいます。
それで生まれた神様が上賀茂神社に祀られる雷の神様、「賀茂別雷神」なのです。

ここでは、樹下宮から階段を登ったところにある「樹下若宮」で玉依彦神として祀られています。

樹下若宮

大山咋神は、先ほど紹介した古事記の一文によると、矢先につける「鳴鏑」をご神体とする神様ですから、この矢が大山咋神だったということでしょうね^^

ちなみに、樹下神社は女性の神様ですが、かつては日吉大社全体を代表して神罰を下していたという、恐れられていた社でもあったそうです。
なんでも、延暦寺横川の勢力下にあって、呪力の強い僧を神格化して祀ったのだとか。

失礼のないようにお参りしなければなりませんね^^;
きちんとお参りすれば、安産子育て健康長寿の御利益があるそうです。

樹下宮から一段高くなったところにあるのは、東本宮拝殿(重文)。

東本宮拝殿

楼門から入って、正面に見える建物です。

方三間(正面三間、側面三間)の拝殿なのですが、滋賀県にはこのような方三間の秀作が多いのだそうです。
中に上がることもできて、日吉大社の大祭、「山王祭」の様子を紹介する写真がたくさん展示されていました。

拝殿の奥には東本宮本殿(国宝)があります。

東本宮本殿

東本宮本殿

東本宮本殿

きらびやかで豪華な社殿ですね^^
本来なら御本宮には風格のある獅子・狛犬がいらっしゃるのですが、私が訪れた時は大津市歴史博物館の比叡山展に出陳れていてお留守でした。

東本宮の社殿の造りは日吉造(ひえづくり)という、特殊な造りになっています。

特徴は、床下は結構高めで、内部が御神座となる内陣と、その外回りの外陣に分かれています。
そして、(ひさし)が正面と側面についているのですが、背面はバッサリと途中で切られたように短くなっています。

東本宮本殿 背面

別の角度から。

東本宮本殿 背面

このように、後ろだけアンバランスになっているのが特徴ですね。
なんだか、ガンダムのシャアの兜にも見えるような気がします^^;

なぜこのような形なのか?詳しくはわかりませんが、神様が山を見上げるため、と聞いたことがあります。

日吉大神は比叡山の守護神ですから、山の上にいる僧侶が修行を頑張っているかどうか見ているのでしょうね^^

この造りは日吉大社が本家なのですが、国指定建造物としては全国に4社しかないうちの1つで貴重なものです。
そのうち日吉大社には、東本宮、西本宮、宇佐宮の3社が日吉造となっています。

この3社は特に格式が高く、「山王三聖(さんのうさんしょう)」と呼ばれています。

そして、東本宮の後ろは、さらに層が一段高くなっているのですが、まだ社殿があります。
中七社の一つ、大物忌神社です。

大物忌神社

ここには大山咋神の父神様である「大年神(おおとしのかみ)」が祀られています。

東本宮と比べて格は低いのですが、東本宮の背後で一段高いところで祀られているのは、父神様だからでしょうか?
隠居して後ろから見守っているような感じですね^^

水への信仰?日吉大社の境内を流れる湧き水の謎

日吉大社は水が豊富な場所でもあります。
このエリアにある社殿の足元を見ると、社殿の周りに溝が引かれ、一周するように水が引きこまれています。

東本宮 水

例えば樹下宮の足元には、社殿に添って溝があります。

樹下宮 溝

日吉大社 樹下宮本殿

この溝は、日吉大社の各本殿全般に見られます。
東本宮エリアを流れる水は、背面にある山裾から湧き出た水で、東本宮エリアでは大物忌神社を一周し、続いて東本宮を一周、途中で「亀井」の水が合わさり、樹下神社本殿を一周、そして樹下神社の霊泉の水と合わさって、大宮川に流れ込みます。

拝殿の周りには溝がないので、神様を意識しているのは明らかですね。
大山咋神は山の神ですから、山は水を生み、それを日吉大社の神々が清めて里に送り、その恵みを人々が受ける、ということを意味しているのかもしれません。

この水は飲めるそうで、上の柄杓が置かれている写真の場所ではペットボトルに水を汲んでいる人がいました。
八王子山の山頂付近にある奥宮まで登る方は、水筒持参でここで水を汲むのがオススメです^^

カップルのお二人は必須!夫婦和合・縁結びのスポット

夫婦和合・縁結びの象徴とされる木「ナギの木」。
特に和歌山に本拠地がある熊野三山系の神社では、ナギの木はご神木とされています。

特に熊野速玉大社では、平重盛の手植えの(なぎ)の大樹が見どころの一つとなっています。

葉が丈夫で、引っ張ってもなかなか切れないほどなので、これにちなんでいつまでも強い結びつきを願うわけです。

熊野速玉大社の主祭神は、イザナギ。
イザナギ・イザナミという夫婦神の男神なのですが、夫婦和合や縁結びの御利益はそういうところから来ているのかもしれません。

そんなナギの木ですが、東本宮エリアにも日吉雄梛(ひよしおなぎ)日吉雌梛(ひよしめなぎ)という二本のナギの木があります。

日吉雄梛は楼門から入ってすぐ左手側。
スラッと伸びています。

日吉雄梛

日吉雌梛の方は東本宮の横にあります。

日吉雌梛

日本の木は少し離れた位置にあって、雌梛(めなぎ)は男性が女性の幸せを祈る木で、雄梛(おなぎ)は女性が男性の幸せを祈ります。

それぞれの幸せを願うことは幸せに繋がりますから、夫婦はもちろん、パートナーがおられる方は日吉大社に参拝にきたらぜひお祈りしておきたいですね^^