天龍寺

嵯峨嵐山にある禅刹「天龍寺」。

吉野で無念の死を遂げた後醍醐天皇の霊を弔うために、足利尊氏が建立したお寺です。
元々この辺りは御嵯峨天皇の離宮「亀山殿」があった跡地に創建されました。

当時の敷地は今よりも10倍とも100倍ともいわれる広さで、渡月橋や嵐山もその境内に含まれていたといいます。
塔頭寺院(天龍寺に属する小院のこと)も150ほどあったのだとか。

室町時代当時、京都の禅宗の寺格を表した五山制度では、「京都五山」の第一位に列していたことからも、かなりの名刹であったことがわかります。

天龍寺で有名なのは、なんといっても曹源池庭園でしょう。
貴族文化と禅文化が融合した日本で一番古い庭園として世界文化遺産に登録されています。

広い庭園なのですが、後ろの嵐山と亀山を借景にすることで広大で自然の豊かさを演出されています。
四季折々の表情を見せ、特に桜と紅葉の時期は観光客でいっぱいになります。

また、法堂の天井に描かれている八方睨みの龍「雲龍図」も有名です。

天龍寺の拝観について

天龍寺 地図

天龍寺の拝観は、

  • 庭園(曹源池・百花苑):500円
  • 諸堂(大方丈・書院・多宝殿):庭園参拝料に300円追加
  • 法堂「雲龍図」特別公開:土日祝日のみ(春秋は毎日公開期間あり):500円

となっています。
それぞれの入り口での購入で、セット割引はありません。

庭園だけ見る、というのもOKです。

ただ、全部を見て回る場合、出入口の関係があって、庭園は最後に見るのがおススメです。

嵐山のメインストリートにつながる天龍寺の東門から入ると、その先にそれぞれの参拝受付が集中しています。
御朱印所もそこにあります。

一方で「竹林の道」からの出入口となる北門は、庭園の出入口となっています。

北門から庭園に入る場合は、庭園を先に見るのもOKです。
問題は東門から入る場合。

東門側から庭園に入ると、そのままの流れで行くと北門が出口になるのですが、そこから出ると竹林の道に出てしまい、境内に戻るには大回りしなければなりません。
法堂拝観、諸堂拝観、御朱印を頂く予定の方が、後でそれをやろうとするとちょっと手間ですね。

なので庭園拝観より先に済ませちゃった方が良いと思います。

下は東門から先にある、諸堂拝観の受付となっている庫裏。

天龍寺 庫裏

この建物が見えたら、東側からの入り口となりますのでお気をつけください。

天龍寺のキーパーソン、夢窓疎石

夢窓疎石

夢窓疎石(むそうそせき)は、天龍寺を語るうえで欠かせない人物です。
あまり知らない方も多いかもしれませんね。

夢窓疎石は鎌倉時代から室町時代にかけて活躍した禅僧です。
後醍醐天皇から国師号を授けられ、「夢窓国師」とも呼ばれています。

そのことからも、夢窓疎石は後醍醐天皇から信頼されていたことがわかります。

後醍醐天皇は、足利尊氏と共に鎌倉幕府を倒した天皇です。
しかしその後に、足利尊氏の反旗によって吉野に追われ、南朝政権を樹立することになりました。
そこから南北朝時代が始まります。

一方で、夢窓疎石は足利尊氏・直義兄弟にとっても心の師匠でもありました。

つまり、南朝(吉野朝廷)、北朝(京都朝廷)のどちらからも信頼されていた人物、ということですね。

そんな夢窓疎石が、天龍寺とどういう関係があるのでしょう?

後醍醐天皇は、吉野から京都に返り咲くことなく、足利尊氏と仲違いをしたまま無念の死を遂げたのですが、後醍醐天皇の霊を弔うよう、尊氏に直言したのが夢窓疎石なのです。

南朝は、後醍醐天皇が亡くなった後も意気を高めていましたので、幕府側はこの情勢に対応する必要がありました。

そこで幕府は首都を京都にし、朝廷との協調体制を誇示しようとするのですが、南朝に対してその協調姿勢を示すためにも、北朝の天皇によって後醍醐天皇の慰霊を行おうと考えたわけです。

それによって南北朝廷間の和解を図ろうとしたんですね。

そのために建てられたお寺が天龍寺、というわけです。

夢窓疎石は、そういう政権アドバイザーという一面を持ちながら、作庭の名人でもありました。
天龍寺の曹源池庭園は、夢窓疎石の代表的庭園の一つです。

禅の主題が隠された曹源池庭園

天龍寺庭園は、池泉と築山を中心とした庭です。
目の前の大きな池は曹源池(そうげんち)という名前なので、曹源池庭園とも呼ばれています。

庭のタイプとしては、池泉回遊式庭園になります。

日本庭園では池のことを池泉(ちせん)といいます。
その池の周りを回遊して楽しむ庭のタイプが、池泉回遊式庭園です。

(他のタイプは、舟を浮かべて詩や歌を楽しむ「池泉舟遊式庭園」、部屋から鑑賞する「座視鑑賞式庭園」、といったものがあります。)

方丈側から右手を見ると、庭の向こう側に愛宕山が見えています。

天龍寺 曹源池庭園 愛宕山

左側には、嵐山と亀山が。

天龍寺 曹源池庭園 嵐山 亀山

天龍寺庭園はかなり広い庭ですが、これらの山があることでさらに広く見せる演出をしています。

このように、遠くの景色が庭の一部に見えるように利用する造園技法を「借景」といいます。

天龍寺庭園は、惜しみなくこの技法が使われていますね^^
実は、庭から霊峰を配するのが、夢窓疎石が造る庭園の特徴のひとつなのだそうです。

そして天龍寺庭園には、禅の教えが2つ含まれています。

禅語「曹源の一滴水」に因む曹源池

一つは、池の名前である「曹源池」の由来。
これは「曹源の一滴水」という禅語に因んでいます。

「曹源」というのは、禅宗の祖、達磨大師から6代目にあたる、慧能(えのう)禅師のことです。
慧能禅師は、初代の達磨大師から続いてきた教えを「禅」として大成させた人物です。

この教えが数々の禅宗宗派に分化して、日本にも伝わっています。

つまり、一滴の水は小川となり、やがて大海となる、ということですね。
一滴の水、というのはそのような可能性があるので、それは大切にしなければなりません。

天龍寺には一滴水に関するエピソードがあります。

明治初期に天龍寺の管長となり、中興した禅僧、滴水宜牧(てきすいぎぼく)禅師の話です。

岡山の曹源寺という寺に儀山禅師という禅僧がいました。
儀山禅師のもとで若い修行僧が修行をしていました。

ある夏の日、禅師が風呂に入ろうとしましたが、湯が熱かったので、修行僧に水を持ってくるように命じました。
すると修行僧は、桶に残っていた水を何気なく捨てて、新しい水を汲みに行こうとしたのです。

それを見ていた禅師は、いきなり怒りだしました。

「残り水でも無駄にせずに、木の根にでもやれば、水も生き、炎暑でなえている木も生きるではないか!」

この一言でハッとした修行僧はますます修行に励み、ついには50歳の若さで天龍寺の管長に推薦されました。
その後「滴水」と名を改め、弟子に一滴の水の大切さを教えていきました。

禅は一滴の水から始まったわけですが、つまりは一滴の水には仏性が宿っているということです。
一滴の水を捨てるということは、大河の根源を捨てるということ。

一滴、というと大した影響を与えない量なのかもしれませんが、その一滴を大切に扱う心が重要なんですね。

「登龍門」の故事からなる「龍門瀑」

天龍寺 龍門瀑

天龍寺庭園の見どころの一つが、中央奥にある龍門瀑(りゅうもんばく)という石組です。

中国の黄河の上流にある激流の渓谷に三段の滝があって、その滝を上りきった鯉は龍になる、という伝説があります。
日本でもよく使われている「登龍門」はこの故事からきています。

鎌倉時代に中国(宋)から来日した蘭渓道隆(らんけいどうりゅう)がこの登龍門を庭で表現しました。

伝説にちなんで滝は三段構成を基本とし、鯉に見立てた「鯉魚石(りぎょせき)」を置きます。
それが龍門瀑です。

天龍寺 龍門瀑

今では水は流れていませんが、かつては流れていたそうです。
でも、これだけ見てもちょっとわかりにくいですね^^;

なので、写真にちょっと説明を追加しました。

天龍寺 龍門瀑

中段に置かれている石が、今まさに龍になろうとしている鯉を表現した鯉魚石です。

天龍寺 竜門瀑 鯉魚石

なんとなく鯉にも見えるような、見えないような^^;

天龍寺の龍門瀑は、近づいて見ることができないので、ちゃんと見たいなら双眼鏡は必須です。

夢窓疎石は蘭渓道隆の影響を受けていますので、この龍門瀑を好んで造りました。
夢窓疎石作の龍門瀑は、天龍寺や西芳寺(苔寺)のものが有名です。

あと、天龍寺や西芳寺の庭の影響を受けて後に造られた金閣寺にも龍門瀑があります。
場所は、金閣を見終わった後に続く参道。

金閣寺の龍門瀑は間近で見ることができます。
豊富な水量の滝になっていて、鯉魚石もなかなかリアルですよ^^

八方睨みを体験!法堂の雲龍図

天龍寺 法堂

天龍寺の法堂は、嵐山のメインストリートにつながる東門をくぐった先、左側に見える大きな建物。
「選佛場」という額が掲げられている建物です。

拝観は、土曜日・日曜日・祝日のみで、春夏秋の特別参拝期間は毎日公開されています。

法堂の裏側に拝観の受付があって、1人500円です。

法堂で拝観できるのは、平成9年(1997年)に、夢窓国師650年遠諱を記念して、加山又造画伯によって描かれた「雲龍図」です。

通称「八方睨みの龍」といわれていて、どの方角から見ても、見る人の方を睨んでいるように見える龍です。

禅宗寺院の法堂には八方睨みの龍が描かれていることが多いですが、それぞれに個性があるので、見比べてみるのも面白いですね^^

こちらが天龍寺の雲龍図です。

天龍寺 雲龍図
※ポストカードより

円相の直径は9メートル。
ぼかしの技法が使われているのですが、それによって龍が雲の中から現れている感じに仕上がっています。

八方睨みを体感するには、実際に法堂に入ってみないと実感することができません。
ポストカードをぐるぐる回してみても、何も変化しないんですね(≧▽≦)

法堂の雲竜図の下に立って、円相に沿って歩きながら龍を見るのですが、そうすると顔の角度がこちらの方を向く少しずつ変わります。

「目」だけに注目すると、どこを見ているのかわからないので違いもわからないのですが、顔の下半分の角度に注目すると、それが歩く方向についてくるように見えました。

厚さ3センチの杉板を159枚張り合わせて、その後に全面に漆を塗って、さらに白土を塗り、そこに直接墨で描いているのだそうです。
そういう凸凹間があってこその八方睨みなのかもしれませんね。

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