星と祭

琵琶湖周辺には十一面観音がたくさん祀られています。

それぞれが個性的で、京都や奈良ではなかなか見られない独特の雰囲気のものばかり。

石山寺や三井寺など大津市内にあるお寺なら京都と同じくらいの知名度で行きやすいのですが、湖北の方などに行くと住職のいないお寺が多くて、地元の人で交代でお世話しながら守っていることが多いんです。

なので拝観するには、世話方に連絡して扉を開けてもらうように事前連絡が必要だったり、なかなかハードルが高いです^^;

そんなハードルがあったとしても、十一面観音を見に行きたくなるのがこの、井上靖の「星と祭」です。
私はこの本を読んで、滋賀の十一面観音に注目するようになりました^^

主人公である会社社長、架山が、前妻との間にできた17歳の娘を琵琶湖で亡くし、その悲しみの心の変化を描写した小説です。

遺体が見つからないことから、きちんとした形で娘の葬儀すらできないことに悶々としながらも何年も過ぎていくのですが、その間に琵琶湖の十一面観音のことを知ります。
一度、誘われて十一面観音を拝観しに行ったところ感銘を受け、その後も他の十一面観音を訪ねるようになります。

大雑把に流れを説明しましたが、その中で色々と主人公が感じる違いが描かれ、死者の鎮魂の念がだんだんと呼び起されていきます。
ストーリーなので、あまり内容には触れませんが、ラストの締め方も良かったです♪

京都や奈良の仏像はどちらかというと「信仰」よりも「美術品」としての価値の方が注目を集めますが、滋賀の十一面観音は逆に「美術品」というよりも「信仰」。

それも、厳密に宗教じみた信仰というよりも、ただただ観音様への感謝の気持ち、ありがたい気持ちを持っている地元の人達が守っている、という感じです。

そういう意味で、「仏像」というより「ほとけさま」という感じなんですよね^^

欧米系の「信じる宗教」ではなく、死者の魂を慰める「鎮魂」という概念も含めて、日本的な「感じる宗教」がなんとなくわかる気がします。

この本は1975年3月初刊発行の古い本ですが、全然古びた感じもなく楽しめますよ♪
特に仏像のことが知りたくて読むのなら、近江の仏像関係の本も横に置いておくと良いですね。
仏像ファンが京都や奈良だけでなく、滋賀にも注目する理由がわかります。

私の場合は、「近江若狭の仏像」という本が見やすそうだったので、それに載っているものを参考にしました。

これとセットで読むと、滋賀には魅力的なお寺がたくさんあることがわかります^^

「星と祭」の書籍版は、新品は出版されていないようで、中古品がかろうじて販売されているようです。
ただ、Kindle版は販売されているので、なくなることはなさそうです。
ちょっと安心ですね^^