秘仏 毎日新聞社編

日本にはたくさんのお寺がありますが、その中には、硬く閉ざされた部屋や厨子の中に入れられて、直接拝観できない仏像である秘仏を所持しているお寺があります。

そういう仏像も時々特別公開される場合があったり、中にはお寺の住職ですら拝むことができない絶対秘仏となっている仏像もあります。
また、特別公開とはいっても、60年に1度公開されるといった、一生に一度拝めるか拝めないか、という仏像もあります。

仏像は本来、拝むために作られたもの。
ではなぜ「秘仏」というものがあるのでしょう?

そういうテーマでその謎を考察しているのがこの「[PR] 秘仏」という本です。

秘仏が秘仏になった理由はお寺によって違ったり、時代の流れで要因が複雑に絡むものもあると思いますが、いくつかの視点が挙げられています。

秘仏になる主な理由

聖なる世界と一線を画すため

まずは最も正統的な理由となるのが「私達の住む俗世界と、聖なる世界をきちんと区別するため」です。

日本人はそもそも、具体的な形を持たない「聖なるもの」への信仰になじんでいますので

「神秘的な霊威力を持つ仏像を俗世界のものが軽々しく接することは畏れ多い」

と考えるわけです。
むしろ、閉じられたものにこそ神聖さを感じるわけですね^^

そういう秘仏は、奈良時代後半から平安時代前半にかけて、つまり密教が発達していく段階に制作されたの仏像に多いようです。
十一面観音や千手観音、如意輪観音などの変化観音で、特に霊験が語られる名刹のお寺に多いですね。

神道における「神」の祀り方の影響

日本の神様は、祀る時に出現したり、出現した時に祀ります。
なので祭りの場では神籬(ひもろぎ)などを神が降臨する「依りしろ」を置きます。
そして神籬に対していますが如く奉仕するわけです。

奉仕する時は、特定の日時を定めて有縁の人々によって行われます。
それが神道における神の祀り方です。

それに対してお寺では、境内の各お堂に仏像を安置して、常駐しているものとされていました。
参拝は随時、個人で行われていました。

こういう違いがあったのですが、ここで変化が起きたのは、仏教で縁日や法会などの行事が行われるようになってからのことです。

縁日や法会を行うことは、神道でいうところの、特定の日時に有縁の人々によって行われる祭りと似ていますよね^^

なので、今まで「常にいる」とされてきた仏がある特別な機会にだけご開帳するようになったのではないか?という説に繋がります。

礼拝する人の誤解や失敗を防ぐため

仏像は、温和な如来や菩薩像だけではありません。
中には、血走った形相で敵対者の生首を持つ忿怒尊や、男女の夫婦神が激しく抱き合う歓喜仏などの像もあります。

こういう仏像のパワーは大変強力でものすごい助けになるのですが、理解が十分でない者にはかえって害を与えてしまったり、怒らせて大変なことになったりすることも少なくないのだそうです。

密教色の強い明王や、ご利益の著しい天部像などがこの理由で秘仏になっていたりします。

仏像の持つ霊験功徳を高めるため

こちらは、お寺を運営する側の都合による理由ですが、一番現実的な秘仏化の理由です。

秘仏化すれば、仏像のプレミアム感が高まりますので次第に祭り上げられ、象徴化されていきます。
そして意識的に仏像の霊験功徳を高めることにつながっていくわけです。

仏像の保存・安全性のため

第一の理由とまではいかないけど、主要な理由の1つになるのがこの「保存・安全性のため」という理由。

確かに、普段は秘仏で特別な時だけに開帳される仏像には、彩色が残っているほど保存状態が良いものもあるんですよね。

でも、秘仏にし過ぎたために、カビや虫の害などで仏像の傷みが進んでどうしようもなくなってしまったということもありますし、酷い場合は火事で焼失した際にその本来の姿が永遠の謎になってしまったものもあるわけです。

そうなってしまっては、元も子もありません。
たまには御開帳して確認することも大切ですね^^

御開帳の日程には意味がある

御開帳される秘仏は、月に一度、又は年に一度、○年に一度、と決められた間隔で御開帳される場合が多いです。
その日程の間隔には理由があるんです。

まず月に一度、年に一度の場合は縁日での御開帳。
「縁日」は信者の祈願と仏をより強い縁で結んでもらえる結縁の日です。

普段以上のご利益があると信じられていて、この日に参詣すれば、○○回分参詣したのと同じ功徳になる、と説かれていることもあります。
代表的な縁日は、

  • 毎月8日:薬師如来の縁日
  • 毎月18日:観音菩薩の縁日
  • 毎月24日:地蔵菩薩の縁日
  • 毎月28日:不動明王の縁日

などがあります。

次に、12年に一度の御開帳。
1年に1度のタイミングでも拝観するのは難しいのに、ここまで長いとその秘仏に出会える確率がぐっと下がります^^;

こちらは十二支が由来になっています。
2014年は午年ですが、午年には馬頭観音が御開帳されるお寺が多かったり、秩父三十四ヶ所観音霊場では、観音様の御眷属の「馬」にちなんで霊場のご本尊が総開帳されます。

その他にも、仏像ではありませんが辰年の時には禅寺で雲龍図などが公開されることがあったりなど、干支にちなんだご開帳・特別拝観が行われます。

次は33年に一度の御開帳。
もはや、拝ませる気があるのかどうか伺いたくなる年数ですね^^;
御開帳のタイミングをうっかり外してしまうと、次のタイミングがものすごく遠いです。

こちらは、観音菩薩が三十三の姿に変身して衆生を救う、という話に由来するものです。
西国三十三所観音巡礼など、観音巡礼には三十三の札所が設けられますが、この数字も同じ理由です。

西国三十三ヵ所の札所にはそういうお寺が多いですね。

次は48年に一度の御開帳。
こちらは「阿弥陀如来がかかげる四十八の大願」にちなむ数字です。
御開帳のタイミングを外してしまうと、もしかしたら次は出会えないかもしれません。

そして最後に60年に一度の御開帳。

陰陽五行によるもので、十干・十二支が繰り返す還暦にあたります。
御開帳のタイミングを外すと、もはや次はありませんよね^^;

以上が代表的な御開帳タイミングですが、60年に一度のご開帳のタイミングを逃してしまった・・・という方もまだチャンスはあります!

このように決められたタイミング以外に、期間の真ん中で「中開帳」というものがあったり、又は別の理由で特別に開帳される場合もあるんです。

例えば、2014年は四国八十八ヶ所霊場開創1200年を記念して、秘仏のご本尊が一斉ご開帳されます。
全てではありませんが、普段拝することのできない仏様を拝することができるチャンスですね^^


秘仏が秘仏になった理由は、上で挙げた例だけでなく、独自の理由があったり、それが複雑に組み合わさったりします。
また、仏像の大きさや尊格、材質、宗派などによっても秘仏になる理由が含まれていたりします。

[PR]秘仏 毎日新聞社編」では、そのあたりはもちろん、さらに色々な角度から秘仏化を考察しています。
気になる方は読んでみて下さい^^